誰しもがこの世界とお別れする時が来る。
本当は、当たり前のことなのだけど、
普段はあまり身近に感じることはないかもしれません。
あなただったら、どんな姿で残されたあの人と一緒に居たいと思いますか?
本人にとっても、家族にとっても、納得できる
最高の遺影写真を撮りたい!
家族の一日を追いかけたルポルタージュです。

カメラマン
PhotoLeGe
小栗啓吾

病院の介護士として勤務しながら『介護写真家』として撮影を行なっている。 イキイキとした介護士の表情を写真に切り取ることで、介護現場での心の触れ合いを多くの人に知ってもらうことを目的に様々な活動をしている。また、出張で遺影撮影をしながら介護・終活相談も行なっている。

スタイリスト
JIBUN STYLE LABO代表
古屋ヨウコ

人を笑顔に輝かせることをミッションに、他人との比較ではなく、自分らしさを大切にした『JIBUN STYLE』にこだわり『最高に輝くJIBUN/自分』を装いで表現するスタイリングアドバイスをはじめ、個人や企業、店舗の価値を高めるプロデュース、ブランディングサポート事業等、活動のフィールドを広げている。

ヘアメイク
綺羅化粧品浜松
野田健

パウダーメイクの機能性に感動して、板前から綺羅化粧品へ転職。現在はメイクアップ&小顔エステ小顔エステトレーナーを担当。「人を綺麗に見せる」を信念に日々技術に磨きをかけている。

11月22日

第1回 夫婦一緒に初めての遺影撮影

浜北区にお住まいの小栗安夫さん(72歳)と恵子さん(67歳)は、それぞれの趣味を楽しみながら悠々自適な毎日を過ごす仲良し夫婦。まだまだ若くて元気いっぱいなお2人ですが、「だからこそ今のうちに…」と、遺影写真を撮ることにしました。カメラマンを務めるのは、ご長男の啓吾さん。現在、プロのカメラマンとして独立に向け準備中です。

撮影の当日には、啓吾さんの他にプロのメイクさんやスタイリストさんも同行し、本格的なロケ撮影が行われました。その様子をお伝えしながら、小栗さんご夫妻が遺影写真を撮ろうと考えたきっかけや、ご家族に対する想い、そしてお2人のこれまでの人生を振り返ります。

玄関の全体写真 キジの剥製が誇らしげです

雨あがりの澄んだ青空が広がる9月6日、午前9時。浜松市浜北区にある小栗さんのご自宅前に撮影スタッフが集合しました。玄関先で「どうぞおあがりください」と笑顔で迎えてくれたのは、奥さまの恵子さん。築34年になるというご自宅は、昔ながらの真壁造りの佇まい。玄関にはご主人の安夫さんが狩猟でしとめたという山鳥のはく製が飾られています。

 

スタッフが通されたのは、八畳二間続きの和室。柔らかな陽が注ぐ広縁には、本日の撮影用のメイクコーナーを即席でしつらえてあります。「今日はよろしくお願いします!」とお互いに挨拶を交わした後、さっそくヘアメイクさんが恵子さんのメイクを開始。化粧水を手にとって巧妙に指を動かし、恵子さんの肌に沁み込むように優しくマッサージを繰り返します。最初のうちは慣れない体験に戸惑いの表情を見せていた恵子さんも、徐々に緊張がほぐれてきた様子。
「私、若い頃にソフトボールをやっていて、炎天下でよく試合に出たりしていたの。だから今では顔のシミが気になって…。朝のゴミ出しだってメイクをして行く人なのに、今日はスッピンでいるように言われたから、どうなることかと心配だったのよ。でも、今はどれだけキレイになれるか楽しみ!」と、ウキウキした表情で話します。

広縁の掃出窓には、ご主人の安夫さんが育てたゴーヤとパッションフルーツのグリーンカーテンが心地よい影をもたらし、柱に吊るした広告チラシが風にゆらゆら。広告チラシの裏には、恵子さんが練習中の合唱曲の歌詞が書いてあります。
「亡くなったおばあちゃん(義母)もよくこうやってチラシの裏にいろいろ書き留めて吊るしていたんです。親子なだけに、最近おばあちゃんとやることがそっくりになってきたなぁ」と、ご主人の安夫さんが穏やかな笑顔を浮かべます。

 

15分程でスキンケアが終わると、ファンデーションを塗ってからコンシーラーを加え、ベースのメイクはこれで完成。次は、撮影で着る衣装を決めます。
続き間の長押にひっかけたハンガーには、合唱の発表会の時に着るカラフルなドレスや、お気に入りの普段着など、恵子さんが事前に選んでおいた衣装の候補がずらり。それをスタイリストさんが1着1着チェックしながら、アクセサリーやスカーフのコーディネートを考えます。

その間、恵子さんは和室でちょっとひと休み。和室の仏壇の前には、昨年亡くなられたおじいちゃん(恵子さんのお父さま)と、今年亡くなられたおばあちゃん(恵子さんのお母さま)の遺影が、まるで微笑みかけてくるように並んでいます。
「おじいちゃんは去年に93歳で、おばあちゃんは今年の4月に90歳で亡くなって、お盆も2年連続でやりました。おばあちゃんの遺影は、80歳の頃、踊りの発表会があったついでに写真屋さんで撮影したもの。おじいちゃんの遺影はデイサービスで撮ったスナップ写真。若い女性スタッフさんに囲まれて、嬉しそうにしているところを撮ったのよ(笑)」と、懐かしそうに語る恵子さん。

 

おばあちゃんが亡くなってから5ヶ月、まだまだお2人の悲しみは癒えません。
「おばあちゃんは施設から家に連れ帰ってから4時間足らずで亡くなったんです。家内と長女が吸引の仕方を教わって、これからみんなで介護をしようと決めていたのに…。きっと本人も最期を覚悟して帰ってきたんでしょうね。みんなに迷惑をかけるのが嫌いな性分だったから、早くに亡くなったんだと思います。特に家内は今でも喪失感が尾を引いていると思いますよ。母娘ともにお茶目で、性格がそっくりで、とても仲が良かったから」
そう語る安夫さんの傍らで、恵子さんが目を潤ませます。

 

お葬儀以来、毎日、お水とご飯とお線香を仏前に上げて、おばあちゃんの遺影に向かって語りかけるという恵子さん。一方、「僕は仏壇をあんまり拝んだりしない。その代わり、たとえば農作業をしている時に、『おばあちゃんと一緒によくこの作業をやったな』って思い出すようにしているんです。そうやって何かにつけて故人との思い出を振り返ることが、1番の供養になると思っているから」と安夫さん。
ご両親が立て続けに亡くなり、死を身近に感じたことが、今回の遺影撮影にもつながりました。
「それに、亡くなる直前だと風貌が変わってしまうし、逆にあんまり若い頃の写真だとご近所の方々が誰だかわからないでしょ。だから、遺影を撮るのには今がちょうどいい時期なのかもしれないと思って。私のお友だちにもそう言う人が結構いるのよ」と恵子さん。

 

撮影スタッフともすっかり打ち解けて、おしゃべりが弾む中、ヘアメイクさんが恵子さんに声をかけ、今度はヘアを整えます。ヘアスタイルは恵子さんの普段のイメージを大切にしながら、ふんわりとナチュラルにスタイリング。ヘアが整った後は、いよいよ撮影用の衣装選びです。いろいろな衣装をあてがいながらアクセサリーやスカーフをとっかえひっかえして、どれがいいか選びます。

悩んだ結果選んだのは、普段よく着ているというロケット柄のブラウスと白いパンツのコーディネート。そしてもう1着は、合唱の発表会でよく着るコーラルピンクのロングドレスに決定。普段着姿は近くの神社で、ドレス姿はリビングのピアノの前で撮影します。
服に合う色のアイシャドウやルージュを選んでメイクを仕上げ、撮影の仕度が完成。
これから、いよいよ撮影スポットの神明宮に向かいます。
(次回へ続く)