今も昔も、映画はみんなが楽しめる身近な娯楽。
映画が誕生して120年余り。
私たちのおじいちゃんおばあちゃん、
あるいは、ひいおじいちゃんやひいおばあちゃんだって
映画を楽しんできました。
ひいおじいちゃんが観ていたかもしれない100年前の映画や
お父さんの青春時代を彩っただろう50年前の映画など
公開年ごとにランダムに紹介していきます。


これまでのライブラリー
2020.10.24.
今から86年前の1934年昭和9年の世界へタイムスリップ。1930年代は東北地方において試練の年回り。30年は、デフレ政策と豊作によって米価が下落。一転、31年は冷害による大凶作に見舞われた上に、世界恐慌の煽りで都市部からの失業者が帰農し、生活を圧迫しました。33年には昭和三陸津波が起こり、太平洋沿岸部に甚大な被害をもたらしました。そして、34年は記録的な大凶作。貧窮に耐えかねて、青田売りが横行し、欠食児童が増加、娘の身売りやタコツボ労働といった口減らしが行われていました。これは江戸時代の話ではなく昭和の話。今の時代からは想像できないような酷い貧困に身を置いていた人々がいました。「宵越しの金を持たない」のは江戸っ子だけではなく、昭和時代にもその日暮らしの生活がまだ普通にあったのですね。
今回ご紹介する映画もそんな貧しさの中に生きる人々のお話。小津安二郎監督の「浮草物語」。前回の「出来ごころ」に続く、喜八もの第二弾です。第一弾に引き続き、脚本家・池田忠雄との名コンビでまたもキネマ旬報第一位に輝いています。前作の喜八は、息子と長屋で暮らすビール工場の工員という設定でしたが、この作品では、旅芸人一座の座長。幼い息子を可愛がる気のいいお父ちゃんから、少し気性の荒い男っぽい性格に変わっていました。とはいえ、坂本武演じる喜八の人間味溢れる魅力は変わりません。そして、かあやんことおつねさんは飯田蝶子、劇団員の息子を突貫小僧と前回と同じキャストが違う役柄で登場します。
物語は、旅から旅に出掛ける暮らしを続ける旅芸人の喜八が、久しぶりに家族の暮らす土地に興行に来たところから始まります。数年ぶりに会う息子・新吉は、すっかり大きくなり進学のために勉強に励んでいました。しかし、興行の間ずっとおつねの店に入り浸る喜八に嫉妬した劇団の看板女優おたかが店に乗り込んで来ます。それに腹を立てた喜八は激昂しておたかを叱責します。それが面白くないおたかは劇団の後輩おときに新吉を誘惑するよう持ちかけます。最初はただの戯言のつもりだったおときですが、愛瀬を重ねるごとに新吉に夢中になってしまいます。それを知った喜八は、またまた激怒して、おたかと縁を切る覚悟を固め、家族のために劇団を解散させてしまいます。しかし、ようやく家族三人で暮らすのかと思ったのも束の間。喜八は旅へ出てしまいます。
どうして、喜八は父であることを信吉には頑なに話そうとしなかったのでしょう?旅芸人の自分が父であると世間が知ったら信吉に迷惑が掛かると思ったのでしょうか。これも親心なのかとも思いますが、どこか物悲しい想いが残ります。この時代は、都市部と農村部との格差は今とは比べ物にならないほど。町場で成功して欲しいと願えばこその喜八の決断だったのでしょう。この時代ならではの「諦め」が切なく胸に沁みいる作品です。
浮草物語
公開日:1934年11月22日
上映時間:89分
ジャンル: ドラマ
監督:小津安二郎
キャスト:坂本武,八雲理恵子,飯田蝶子,突貫小僧
【内容】
世界中の映画人に多大な影響を与えた名匠・小津安二郎監督によるドラマ。坂本武、飯田蝶子、突貫小僧が共演し、池田忠雄が脚本を務めた人情喜劇の傑作『出来ごころ』と『浮草物語』を収録する。2枚組。“あの頃映画 松竹DVDコレクション”。(「キネマ旬報社」データベースより)
●あの頃映画 松竹DVDコレクション 「出来ごころ/浮草物語」 ¥3,080〜
※※GYAO!でも視聴できます。
目次
- No.1: 騒動頻発の年 1972年(昭和47年)の名作
- No.2: 日本中が沸き立った年 1964年(昭和39年)の名作
- No.3: 終戦から5年後の日本ってこんな感じ 1950年(昭和25年)の名作
- No.4: 昭和の歌姫誕生の年 1949年(昭和24年)の名作
- No.5: 平成の始まりはバブリーな恋愛映画 1989年(平成元年)の名作
- No.6: ジャパニーズホラーの金字塔 1998年(平成10年)の名作
- No.7: 皇太子様ご成婚の年 1993年(平成5年)の名作
- No.8:両陛下ご成婚の年 1959年(昭和34年)の名作
- No.9:10年ひと昔といいますが… 2009年(平成21年)の名作
- No.10:マリリンモンローが謎の死を遂げた年 1962年(昭和37年)の名作
- No.11:若者文化が花開く、神武景気に沸いた年 1956年(昭和31年)の名作
- No.12:アポロ11号が人類初の月面着陸をした年-1969年(昭和44年)
- No.13:サンフランシスコ平和条約が発効された年-1952年(昭和27年)
- No.14:ケネディ大統領が暗殺された年-1963年(昭和38年)
- No.15:バカヤロー発言で衆議院が解散した年-1953年(昭和28年)
- No.16:団塊世代が小学校に上がる年-1954年(昭和29年)
- No.17:ナチス軍・ヒトラーが世界を席巻した年-1940年(昭和15年)
- No.18:日本の運命が変わった年-1941年(昭和16年)
- No.19:東京ディズニーランドが開園した年-1983年(昭和58年)
- No.20:「欲しがりません勝つまでは」が流行った年-1942年(昭和17年)
- No.21:マハトマ・ガンディーが銃弾に倒れた年-1948年(昭和23年)
- No.22:暴動や大規模デモ、暗殺…大事件が多発した年-1968年(昭和43年)
- No.23:第一回紅白歌合戦が放送された年-1951年(昭和26年)
- No.24:東京都の人口が世界第一位になった年-1957年(昭和32年)
- No.25:東京で初めてスモッグ警報が出された年-1965年(昭和40年)
- No.26:東京タワーが竣工した年-1958年(昭和33年)
- No.27:原水爆禁止日本協議会が結成された年-1955年(昭和30年)
- No.28:17ヵ国が独立。脱植民地が進んだアフリカの年-1960年(昭和35年)
- No.29:最初で最後ビートルズが来日した年-1966年(昭和41年)
- No.30:ケネディ大統領が誕生した年-1961年(昭和36年)
- No.31:出生率3.43 昭和最高のベビーブームの年-1947年(昭和22年)
- No.32:昭和天皇の詔書にて人間宣言された年-1946年(昭和21年)
- No.33:日本が敗戦・終戦を迎えた年-1945年(昭和20年)
- No.34:戦局悪化の一途、連合艦隊事実上壊滅の年-1944年(昭和19年)
- No.35:戦争の悲劇。戦時猛獣処分の年-1943年(昭和18年)
- No.36:国民徴用令公布など国民生活激変の年-1939年(昭和14年)
- No.37:満州事変から満州国建国 強い日本があった年-1932年(昭和7年)
- No.38:佐藤栄作が非核三原則を言明した年-1967年(昭和42年)
- No.39:芥川賞・直木賞が設立された年-1935年(昭和10年)
- No.40:クーデター未遂2・26事件が起こった年-1936年(昭和11年)
- No.41:盧溝橋事件に端を発し日中戦争が始まった年-1937年(昭和12年)
- No.42:今度の一万円札の顔 渋沢栄一が亡くなった年-1931年(昭和6年)
- No.43:蟹工船事件・エトロフ丸、信濃丸事件の年-1930年(昭和5年)
- No.44:平成天皇継宮明仁様が生まれた年-1933年(昭和8年)
- No.45:昭和農業恐慌・東北地方で深刻な凶作の年-1934年(昭和9年)
- No.46:国家総動員法が公布・施行された年-1938年(昭和13年)
- No.47:三島由紀夫が割腹自決した年-1970年(昭和45年)
- No.48:マクドナルド第一号店が銀座にオープンした年-1971年(昭和46年)
- No.49:オイルショック・トイレットペーパーが消えた年-1973年(昭和48年)
- No.50:プロ野球のレジェンド長嶋茂雄引退の年-1974年(昭和49年)
- No.51:史上初巨人がまさかの最下位の年-1975年(昭和50年)
- No.52:ロッキード事件に揺れた年-1976年(昭和51年)
- No.53:王貞治がホームラン世界記録を達成した年-1977年(昭和52年)
- No.54:新東京国際空港(現成田国際空港)開港の年-1978年(昭和53年)
- No.55:大学入試センターが発足した年-1977年(昭和52年)