今も昔も、映画はみんなが楽しめる身近な娯楽。
映画が誕生して120年余り。
私たちのおじいちゃんおばあちゃん、
あるいは、ひいおじいちゃんやひいおばあちゃんだって
映画を楽しんできました。
ひいおじいちゃんが観ていたかもしれない100年前の映画や
お父さんの青春時代を彩っただろう50年前の映画など
公開年ごとにランダムに紹介していきます。

これまでのライブラリー

2020.10.31.

 

 

 

 今回は、82年前の国家総動員法が公布・施行された1938年にタイムスリップ。日中戦争が長引く中、前線で戦う軍を支えるため軍需工場の生産性を高め、国民が一丸となって戦争を支える体制を作るための法律です。「お国のために」という大義によって、個人の自由を制限され、命さえも捧げる価値観が当たり前になりました。しかし、30年代の日本は、世界恐慌の影響による不況や農業の不作など、都市部と地方の経済格差が広がり、貧困に喘ぐ人たちがあとを絶ちませんでした。そこにきて、戦争という負担を背負わされる訳ですからたまったものじゃありません。貧困と戦争。1930年代も終盤を迎える日本は、今日の日本では考えられない不自由さの中で生きた時代と言えます。

 

 そんな息苦しさを抱えてひた走る昭和13年。この年に公開されたのが田坂具隆監督の「路傍の石」。前年の1月から新聞小説として連載された山本有三の小説を映画化した作品です。明治時代の不遇に生きる主人公 吾一の姿は、作者の生い立ちにも重なるものがあり、自叙伝的な作品とも言われます。不遇に負けず人生に立ち向かう少年の物語は、名作として謳われ、その後3度も映画化されました。当時の文部省が教科映画として製作した作品は、「辛くても辛抱して、乗り越える」という価値観が意図的に差し込まれたものなのか。80年以上経った今にもこの精神は日本人の中に美徳として刷り込まれています。しかし、少年吾一に降り掛かる不幸は酷く理不尽。それでも受け入れて生きよということが政府のメッセージだとすると怖い世界だと感じます。戦争は、国民生活においても戦いを強いる恐ろしいものだと今の私には見えてきます。

 

 主人公の吾一には、人を信用できない父が登場します。士族出身で元は裕福な家庭に育だったのですが、父親の殉職がきっかけで市民運動や裁判に明け暮れ、家庭を顧みないネグレクト父さんです。その父が吾一の運命を捻じ曲げてしまいます。今でいう所の毒親。吾一の大切な人生の転機を自分の自尊心のために潰してしまうとんでもないハイパー毒親なのです。今の感覚で観るとこの時代の我慢は、不毛な我慢も沢山あった。丁稚奉公先で吾一という名を五助に変えられ、「五助!」と読んだらすぐさま「ヘイ!」と答えろというのもパワハラそのもの。男子は丁稚奉公、女子は身売りなどの口べらしと言われる慣習も人権侵害の最たるものです。

 

 30年代は、そんな世の中の不条理を描いた作品が非常に沢山あります。明治維新から列強欧米に対抗するべく軍事国家を作ってきた政治の皺寄せがこんな形で見えてきた時代たっだのかもしれません。このコロナ禍で時代が変わると盛んに言われています。物質的な豊かさを得た私たちが次に育てるべきは、豊かな心ですね。

 

路傍の石

DVDパッケージ

公開日:1938年9月21日

上映時間:131分

ジャンル: ドラマ

監督:田坂具隆

キャスト:片山明彦,山本礼三郎,瀧花久子,井染四郎

【内容】

山本有三原作「路傍の石」の映画化第1作目。明治三十三年頃、山国に近い小さな町で高等小学校二年生の愛川吾一の家は、いなば屋という書店の裏にあった。士族出身の父は訴訟のため家を離れ、母と二人暮らし。成績優秀な吾一は進学を願っていたが、資金がなく同級生の家である伊勢谷呉服店に小僧奉公に出される。そして、母の急死。ひとりぼっちになった吾一はその後、次野先生と父のいる東京へ……。

 

●Youtubeで視聴できます。

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