今も昔も、映画はみんなが楽しめる身近な娯楽。
映画が誕生して120年余り。
私たちのおじいちゃんおばあちゃん、
あるいは、ひいおじいちゃんやひいおばあちゃんだって
映画を楽しんできました。
ひいおじいちゃんが観ていたかもしれない100年前の映画や
お父さんの青春時代を彩っただろう50年前の映画など
公開年ごとにランダムに紹介していきます。


これまでのライブラリー
2020.9.5.
今回は、1936年(昭和11年)にタイムスリップ。この年の2月には、日本のクーデター事件2・26事件によって、政府の要人が襲撃されました。教科書にも載っている有名な事件。1400人余の軍を率いて、首相官邸、警視庁、内務大臣官邸、陸軍省、参謀本部、陸軍大臣官邸、東京朝日新聞を占拠した大掛かりな国家を揺るがす大事件でした。5月にはあの有名な阿部定事件が起こり、世間を驚かす物騒な事件が続きます。そして、7月にはのちに幻と消える東京オリンピックの招致が決定。8月にはナチス政権の元開催されたベルリンオリンピックで、200メートル平泳ぎ前畑秀子が日本女性として初めてオリンピックで金メダルを獲得しました。第二次世界大戦が始まる三年前。世界へ躍進する日本において、不穏な雰囲気の年でした。
そして、この年の9月に公開されたのが、小津安二郎監督「一人息子」。サイレント映画を撮り続けてきた小津監督の初のトーキー映画(音声付き)です。日本では、松竹蒲田撮影所が1931年からトーキー映画を製作していましたが、小津監督はそれから遅れること5年後の初公開。劇中で、息子が母親を映画館へ連れて行くシーンの中で、「これが本当のトーキー映画だよ」という台詞を言わせています。その辺りが小津監督の洒落っ気を感じさせます。映画では、一人息子を育てる母子家庭の親子が主人公。長野の製糸工場で生計を立てる母は、勉強をしたいと願う息子のために私財を投げ打って大学卒業まで支えました。しかし、東京の息子を訪ねてみると大学を出て出世しているはずの息子は夜学の教師として細々と暮らしていました。いつの間にか、嫁を迎えて息子を授かっていたのは喜ばしいことですが、苦労して大学まで出したのに、貧乏暮らしの息子にがっかりしてしまいます。
一方、息子は明日の米にも困るほどの暮らしの中で、母親に良いところを見せようと知人に借金をしながらも東京案内をしようと頑張ります。しかし、お金はすぐに底をついてしまい、それを見兼ねた妻が着物を質入れしてお金を渡します。そして、家族揃って出掛けようとした間際、留守を頼んだ隣人の子供が怪我をしたと連絡が入ります。慌てて、病院に担ぎ込み手当てをして難を逃れましたが、しばらく入院する必要がありました。息子は、持っていたお金をそっと渡しました。結局、東京見物に行けず仕舞い。「ごめんよ」と謝る息子に、母親は「お前のことを誇らしく思うよ」と伝え、何者にも代えがたい経験をしたと感謝して長野へと帰って行くのでした。
まさに小津映画独特の世界観。含みを持たせた演出に心地よい余韻を感じます。思うようにならない現実と折り合いを付ける心の葛藤を描いた作品。置き所のない心の行き先を優しい愛で包んで伝えてくれます。84年経った今もみんな同じような葛藤を抱えて生きています。夢が叶わなくとも希望を失わずに生きること。今と共通する人生のテーマです。そして、当時の親子の精神的な距離は、今の私たちにとっては見習うべき所がたくさんあります。「親しき仲にも礼儀あり」の精神が心地よい距離感です。今はヘリコプターペアレンツと言われるような口も手も出す過干渉な親が増えたと言いますが、あーしろ、こーしろと口出しせずにぐっと我慢する姿に深い愛情を感じます。改めて親子って良いなと思わせてくれる作品です。
一人息子
公開日:1936年9月15日
上映時間:87分
ジャンル: ドラマ
監督:小津安二郎
キャスト:飯田蝶子, 日守新一, 葉山正雄, 坪内美子, 吉川満子
【内容】
世界の映画人に影響を与えた名匠・小津安二郎監督の茂原式トーキー第1作目となるドラマ。田舎の向学心あふれる少年が、母の期待を背負い進学を志す。十数年後、息子は夜学教師となり、母親との再会を果たすが…。“あの頃映画 松竹DVDコレクション”。(「キネマ旬報社」データベースより)
●あの頃映画 松竹DVDコレクション 「一人息子」 ¥3,080〜
※amazonプライムビデオ・youtubeでも視聴できます。
目次
- No.1: 騒動頻発の年 1972年(昭和47年)の名作
- No.2: 日本中が沸き立った年 1964年(昭和39年)の名作
- No.3: 終戦から5年後の日本ってこんな感じ 1950年(昭和25年)の名作
- No.4: 昭和の歌姫誕生の年 1949年(昭和24年)の名作
- No.5: 平成の始まりはバブリーな恋愛映画 1989年(平成元年)の名作
- No.6: ジャパニーズホラーの金字塔 1998年(平成10年)の名作
- No.7: 皇太子様ご成婚の年 1993年(平成5年)の名作
- No.8:両陛下ご成婚の年 1959年(昭和34年)の名作
- No.9:10年ひと昔といいますが… 2009年(平成21年)の名作
- No.10:マリリンモンローが謎の死を遂げた年 1962年(昭和37年)の名作
- No.11:若者文化が花開く、神武景気に沸いた年 1956年(昭和31年)の名作
- No.12:アポロ11号が人類初の月面着陸をした年-1969年(昭和44年)
- No.13:サンフランシスコ平和条約が発効された年-1952年(昭和27年)
- No.14:ケネディ大統領が暗殺された年-1963年(昭和38年)
- No.15:バカヤロー発言で衆議院が解散した年-1953年(昭和28年)
- No.16:団塊世代が小学校に上がる年-1954年(昭和29年)
- No.17:ナチス軍・ヒトラーが世界を席巻した年-1940年(昭和15年)
- No.18:日本の運命が変わった年-1941年(昭和16年)
- No.19:東京ディズニーランドが開園した年-1983年(昭和58年)
- No.20:「欲しがりません勝つまでは」が流行った年-1942年(昭和17年)
- No.21:マハトマ・ガンディーが銃弾に倒れた年-1948年(昭和23年)
- No.22:暴動や大規模デモ、暗殺…大事件が多発した年-1968年(昭和43年)
- No.23:第一回紅白歌合戦が放送された年-1951年(昭和26年)
- No.24:東京都の人口が世界第一位になった年-1957年(昭和32年)
- No.25:東京で初めてスモッグ警報が出された年-1965年(昭和40年)
- No.26:東京タワーが竣工した年-1958年(昭和33年)
- No.27:原水爆禁止日本協議会が結成された年-1955年(昭和30年)
- No.28:17ヵ国が独立。脱植民地が進んだアフリカの年-1960年(昭和35年)
- No.29:最初で最後ビートルズが来日した年-1966年(昭和41年)
- No.30:ケネディ大統領が誕生した年-1961年(昭和36年)
- No.31:出生率3.43 昭和最高のベビーブームの年-1947年(昭和22年)
- No.32:昭和天皇の詔書にて人間宣言された年-1946年(昭和21年)
- No.33:日本が敗戦・終戦を迎えた年-1945年(昭和20年)
- No.34:戦局悪化の一途、連合艦隊事実上壊滅の年-1944年(昭和19年)
- No.35:戦争の悲劇。戦時猛獣処分の年-1943年(昭和18年)
- No.36:国民徴用令公布など国民生活激変の年-1939年(昭和14年)
- No.37:満州事変から満州国建国 強い日本があった年-1932年(昭和7年)
- No.38:佐藤栄作が非核三原則を言明した年-1967年(昭和42年)
- No.39:芥川賞・直木賞が設立された年-1935年(昭和10年)
- No.40:クーデター未遂2・26事件が起こった年-1936年(昭和11年)
- No.41:盧溝橋事件に端を発し日中戦争が始まった年-1937年(昭和12年)
- No.42:今度の一万円札の顔 渋沢栄一が亡くなった年-1931年(昭和6年)
- No.43:蟹工船事件・エトロフ丸、信濃丸事件の年-1930年(昭和5年)
- No.44:平成天皇継宮明仁様が生まれた年-1933年(昭和8年)
- No.45:昭和農業恐慌・東北地方で深刻な凶作の年-1934年(昭和9年)
- No.46:国家総動員法が公布・施行された年-1938年(昭和13年)
- No.47:三島由紀夫が割腹自決した年-1970年(昭和45年)
- No.48:マクドナルド第一号店が銀座にオープンした年-1971年(昭和46年)
- No.49:オイルショック・トイレットペーパーが消えた年-1973年(昭和48年)
- No.50:プロ野球のレジェンド長嶋茂雄引退の年-1974年(昭和49年)
- No.51:史上初巨人がまさかの最下位の年-1975年(昭和50年)