今も昔も、映画はみんなが楽しめる身近な娯楽。
映画が誕生して120年余り。
私たちのおじいちゃんおばあちゃん、
あるいは、ひいおじいちゃんやひいおばあちゃんだって
映画を楽しんできました。
ひいおじいちゃんが観ていたかもしれない100年前の映画や
お父さんの青春時代を彩っただろう50年前の映画など
公開年ごとにランダムに紹介していきます。

これまでのライブラリー

2020.8.1.

 

 

 

 今回は、昭和7年。1932年にタイムスリップ。調べてみると、日本が満州国建国を宣言した年でした。明治時代、日清戦争・日露戦争と満州を巡る戦争の後、関東軍(日本軍)が起こした満州事変により日本軍が満州を占領した翌年のことでした。建国にあったて「五族協和」をうたい、日本・モンゴル族・満州族・朝鮮族・漢民族が仲良く共存することを理想としていました。当時、内乱状態にあった中国で、出現した国家とはどんなものだったのでしょうか。鎖国を引き泰平の世が200年余り続いた日本から明治維新をきっかけに、こんなにも世界への影響力を持つ国になった思うと、明治元年からここまでの64年間がいかに激動の時代であったかがわかります。そして、1867年の大政奉還から約150年。軍事国家から民主主義社会へと、ここまで大きな振り幅で今の日本に変化してきたことが奇跡のようだと思うわけです。

 

 今回、ご紹介する映画は小津安二郎監督の「大人の見る繪本 生まれてはみたけれど」。サイレント映画の傑作と言われているコメディ作品です。1932年は、チャップリンが日本へ来日した年でもあり、欧米では映画制作が盛んに行われていた時期。チャップリンといえば、「黄金狂時代」など数々の傑作を世に送り出しました。そんな時代に公開されたのがこの映画。麻布から郊外へ引っ越してきた家族の物語です。主人公は、当時のサラリーマン家族。一家には、二人の兄弟がいますが、都会からの転校生として地元のガキ大将に目をつけられてしまいます。前半は、その子供達の攻防戦がユーモラスに描かれています。ガキ大将が見せる「ウズラの卵を生で飲み込む」という謎のマウンティング行動やグループの一番小さい子の背中にはいつも「オナカヲコワシテイマス。タベモノヲアゲナイデクダサイ」と紙が貼ってあるのに、誰も気に留めないという昔の雰囲気が堪りません。そして、酒屋のお兄さんは、強いものに弱く、弱いものには鉄拳を食らわすコウモリみたいな人だし、強面のお父さんは突然変顔するし、登場人物みんなキャラクター濃い目です。

 

 後半には、初めは対立関係だった兄弟とガキ大将グループでしたが、酒屋のお兄さんがくれた知恵の輪のおかげで仲良くなります。ある日、友達の家で行われるフィルム鑑賞にお呼ばれすることになります。その友達の父親は、兄弟の父親の上司。フィルムには上司のご機嫌取りをしている父親の姿がありました。普段、兄弟にとっては厳格な父親で常日頃から「偉くなれ」と子供たちを教育していました。あまりにもギャップのあるその光景に兄弟は幻滅してしまうのでした。「父さんは、どうして偉くないの?」とうるさく聞く子供たちに苛立つ父親ですが、父さんが仕事をしているから生活ができるんだと諭します。しかし、子供たちは納得いかない様子。ならば、ご飯を食べないと謎の反乱を起こします。その後、弟は父親に将来の夢を聞かれて「中尉になる」と答えます。父親に「どうして、大将じゃないの?」と聞かれると「兄さんが大将になるから」と答えます。そこで「誰しもが一番偉くなれるわけじゃない」と悟ったのかどうかはわかりませんが、次の日からまた元気に学校へ行くのでした。

 

 「お前ん家の父ちゃんと家の父ちゃんとどっちが偉い?」という子供らしい素直な疑問ですが、権威や生き方、価値観までに及ぶシビアな問いかけです。今も昔も社会に生きる私たちにとっても切っても切れないテーマ。コロナ禍の中、今改めて問われているテーマでもあります。88年前には、軍事政権下にある日本人の価値観に問いかけられたものですが、今の私たちはどんな風に受け取るべきでしょうか。時代が一周まわってもう一度、じっくり考えたいテーマです。

 

大人の見る繪本 生れてはみたけれど

DVDパッケージ

公開日:1932年6月3日

上映時間:90分

ジャンル: ドラマ

監督:小津安二郎

キャスト:吉川満子, 菅原秀雄, 突貫小僧, 斎藤達雄

【内容】

名匠・小津安二郎監督がサイレント期に撮り上げた、初期の代表作と呼ぶべき作品。良一と啓二の兄弟はある日、近所に住む父の上司の家に呼ばれるが、そこでの父の卑屈な態度を見て彼を弱虫だと責める。“あの頃映画 松竹DVDコレクション”。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

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