今も昔も、映画はみんなが楽しめる身近な娯楽。
映画が誕生して120年余り。
私たちのおじいちゃんおばあちゃん、
あるいは、ひいおじいちゃんやひいおばあちゃんだって
映画を楽しんできました。
ひいおじいちゃんが観ていたかもしれない100年前の映画や
お父さんの青春時代を彩っただろう50年前の映画など
公開年ごとにランダムに紹介していきます。


これまでのライブラリー
2020.7.25.
この年の9月1日。ナチス・ドイツとスロバキアのポーランド侵攻。アドルフ・ヒトラーがT4作戦を発令し、第二次世界大戦が勃発しました。世界は、武力に物を言わせて制圧しようとするリーダーのおかげで混乱の極み。日本も例外ではありませんでした。国内では、国民生活の戦時統制が強まりました。2月には、金製品回収・強制買い上げを実施。4月、米穀配給統制令法公布。6月、日本国民の男子の長髪及び女子のパーマネントを禁止する生活刷新案が閣議決定。7月に、国家総動員法に基づき国民徴用令が交付され、戦時下の重要産業の労働力を確保するため厚生大臣に対して強制的に人員を徴用できる権限を与えました。これにより国民の経済生活の自由は失われました。9月には、厚生省が「結婚十訓」を発表し、「産めよ殖やせよ国のため」の標語を掲げました。そして、10月、石油が配給制となり、 物価統制令・地代家賃統制令施行。11月には、米穀強制買上げ制公布実施。とうとう12月には、白米禁止令実施(七分づき以上を禁止)。木炭の配給実施されました。この一年間で、国民生活はますます困窮していきました。今から比べると驚くほど、我慢を強いられていた時代。この時代に生きていた人たちが「今の人は、我慢を知らない」と口々に言われるのがわかる気がします。一方で、今を生きる私たちは、このような我慢を強いられず生きてこられたことを知り、それだけで幸せなことだと心に刻んでおきたいものです。
さあ、今回はこの混乱の世にあった時代の恋愛ストーリーをご紹介。溝口健二監督の「残菊物語」。この年のキネマ旬報邦画ベスト・テン第2位を獲得した作品。溝口の監督作品の『芸道三部作』の一つとして知られています。戦前の映画は、現存するものが少なく、芸道三部作の中でも唯一残された貴重な一つ。『残菊物語』(ざんぎくものがたり)は、村松梢風による日本の短編小説を映画化したもので、後に戯曲やテレビ映画としてもリメイクされています。主人公は、歌舞伎役者二代目尾上菊之助。人気役者である尾上菊五郎の息子として何不自由なく育ちますが、芸の鍛錬に身が入らず人気も地位も親の七光りと後ろ指を刺されてしまいます。そんな、菊之助に唯一本音で接してくれたのが、義弟の息子の乳母をしているお徳でした。そこから、二人の恋が始まります。しかし、稀代の人気俳優の息子とその家の使用人という身分の差が二人の恋路を阻みます。その先は、観てからのお楽しみ。
作品の画像はもちろんモノクロで、時代背景は明治初期の設定。映画が公開された年から4、50年遡るので、ざっと今から120年程前のお話です。江戸時代の身分制度が色濃く残っているのでしょう。当時の人の振る舞いは今とは全然違います。当時のことを知る人がまだ生きていた時代だからこそのリアリティがあるように思います。さらに自由恋愛が珍しかった時代「身分の差を乗り越えて、実る恋」というテーマが当時としては刺激的だったのではないでしょうか。そして、献身的で純真な心をもつお徳の人柄は、当時の理想の女性像として描かれていたのかなと思います。時代背景を考えると若干の怖さと、女の幸せの振り幅が狭すぎるんじゃないかい?と今を生きる私は考えてしまいます。しかし、現代を振り返って見ると、玉の輿を狙って婚活三昧の今の結婚事情とは全く異なる世界観です。同じ価値観を持つ女性の振る舞いとしては、昔の方が品がありますな。この恋愛観の違いも見所かもしれません。
残菊物語
公開日:1939年10月10日
上映時間:146分
ジャンル: ドラマ
監督:溝口健二
キャスト:花柳章太郎, 森赫子, 河原崎権十郎, 高田浩吉
【内容】
尾上菊之助の悲恋を描いた溝口健二監督の名作。五代目尾上菊五郎の養子である二代目菊之助は、上滑りな人気に思い上がっていた。そんな彼の芸の拙さを指摘した弟の若い乳母・お徳に、彼は愛情を抱き始めるが…。“あの頃映画 松竹DVDコレクション”。(「キネマ旬報社」データベースより)
●あの頃映画 松竹DVDコレクション 残菊物語 デジタル修復版 ¥2,190〜
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目次
- No.1: 騒動頻発の年 1972年(昭和47年)の名作
- No.2: 日本中が沸き立った年 1964年(昭和39年)の名作
- No.3: 終戦から5年後の日本ってこんな感じ 1950年(昭和25年)の名作
- No.4: 昭和の歌姫誕生の年 1949年(昭和24年)の名作
- No.5: 平成の始まりはバブリーな恋愛映画 1989年(平成元年)の名作
- No.6: ジャパニーズホラーの金字塔 1998年(平成10年)の名作
- No.7: 皇太子様ご成婚の年 1993年(平成5年)の名作
- No.8:両陛下ご成婚の年 1959年(昭和34年)の名作
- No.9:10年ひと昔といいますが… 2009年(平成21年)の名作
- No.10:マリリンモンローが謎の死を遂げた年 1962年(昭和37年)の名作
- No.11:若者文化が花開く、神武景気に沸いた年 1956年(昭和31年)の名作
- No.12:アポロ11号が人類初の月面着陸をした年-1969年(昭和44年)
- No.13:サンフランシスコ平和条約が発効された年-1952年(昭和27年)
- No.14:ケネディ大統領が暗殺された年-1963年(昭和38年)
- No.15:バカヤロー発言で衆議院が解散した年-1953年(昭和28年)
- No.16:団塊世代が小学校に上がる年-1954年(昭和29年)
- No.17:ナチス軍・ヒトラーが世界を席巻した年-1940年(昭和15年)
- No.18:日本の運命が変わった年-1941年(昭和16年)
- No.19:東京ディズニーランドが開園した年-1983年(昭和58年)
- No.20:「欲しがりません勝つまでは」が流行った年-1942年(昭和17年)
- No.21:マハトマ・ガンディーが銃弾に倒れた年-1948年(昭和23年)
- No.22:暴動や大規模デモ、暗殺…大事件が多発した年-1968年(昭和43年)
- No.23:第一回紅白歌合戦が放送された年-1951年(昭和26年)
- No.24:東京都の人口が世界第一位になった年-1957年(昭和32年)
- No.25:東京で初めてスモッグ警報が出された年-1965年(昭和40年)
- No.26:東京タワーが竣工した年-1958年(昭和33年)
- No.27:原水爆禁止日本協議会が結成された年-1955年(昭和30年)
- No.28:17ヵ国が独立。脱植民地が進んだアフリカの年-1960年(昭和35年)
- No.29:最初で最後ビートルズが来日した年-1966年(昭和41年)
- No.30:ケネディ大統領が誕生した年-1961年(昭和36年)
- No.31:出生率3.43 昭和最高のベビーブームの年-1947年(昭和22年)
- No.32:昭和天皇の詔書にて人間宣言された年-1946年(昭和21年)
- No.33:日本が敗戦・終戦を迎えた年-1945年(昭和20年)
- No.34:戦局悪化の一途、連合艦隊事実上壊滅の年-1944年(昭和19年)
- No.35:戦争の悲劇。戦時猛獣処分の年-1943年(昭和18年)
- No.36:国民徴用令公布など国民生活激変の年-1939年(昭和14年)
- No.37:満州事変から満州国建国 強い日本があった年-1932年(昭和7年)
- No.38:佐藤栄作が非核三原則を言明した年-1967年(昭和42年)
- No.39:芥川賞・直木賞が設立された年-1935年(昭和10年)
- No.40:クーデター未遂2・26事件が起こった年-1936年(昭和11年)
- No.41:盧溝橋事件に端を発し日中戦争が始まった年-1937年(昭和12年)
- No.42:今度の一万円札の顔 渋沢栄一が亡くなった年-1931年(昭和6年)
- No.43:蟹工船事件・エトロフ丸、信濃丸事件の年-1930年(昭和5年)
- No.44:平成天皇継宮明仁様が生まれた年-1933年(昭和8年)
- No.45:昭和農業恐慌・東北地方で深刻な凶作の年-1934年(昭和9年)
- No.46:国家総動員法が公布・施行された年-1938年(昭和13年)
- No.47:三島由紀夫が割腹自決した年-1970年(昭和45年)
- No.48:マクドナルド第一号店が銀座にオープンした年-1971年(昭和46年)
- No.49:オイルショック・トイレットペーパーが消えた年-1973年(昭和48年)
- No.50:プロ野球のレジェンド長嶋茂雄引退の年-1974年(昭和49年)