今も昔も、映画はみんなが楽しめる身近な娯楽。
映画が誕生して120年余り。
私たちのおじいちゃんおばあちゃん、
あるいは、ひいおじいちゃんやひいおばあちゃんだって
映画を楽しんできました。
ひいおじいちゃんが観ていたかもしれない100年前の映画や
お父さんの青春時代を彩っただろう50年前の映画など
公開年ごとにランダムに紹介していきます。

これまでのライブラリー

2020.7.4.

 

 

 

 今回は1944年にタイムスリップ。この年の3年前に始まった太平洋戦争。この年、インパール作戦、大陸打通作戦と内陸へ向けて作戦を開始するも、結果は芳しくありませんでした。そして、6月から始まったマリアナ沖海戦では、出撃21隻に対し損害17隻もしくは20隻の船を失い、艦載機と水上機や基地など476機の航空機を失いました。そして当時、統治していたサイパンとグアムに米国軍が上陸し、激しい戦闘の末に陥落。この戦闘でたくさんの日本兵が命を落としました。これまで、負け知らずであった大日本帝国軍の敗戦が色濃くなっていきました。そんな戦況の中、国内では女性も軍事工場で働き、戦争を支えていました。明治以来、欧米列強に対抗するべく「強い日本」を目指してきた日本。国民全体がそれを信じて(あるいは信じているかのように振舞って?)、崩壊寸前であるにも関わらず、精神論だけで前へ前へと進もうとする苦しい時代。みんな建前と現実とのギャップに苦しんでいました。

 

 そんな時代の映画は、日本政府の検閲が入り、プロバガンダとして利用されていました。その一つでもあるのが、黒澤明監督の「一番美しく」です。黒澤映画にしては珍しく女性を描いた作品。確かに画面の中には、十代の少女たちがキャピキャピしています。後に黒澤監督が「自分の作品の中で、一番かわいい映画」と言及しています。舞台は、少女たちが働く精密機器の製造工場。この苦しい戦況の中、政府からの増産要請に応えるべく、少女たちが奮起します。しかし、少女たちにとって生産目標を達成するのは、至難の技。数週間に及ぶ激務で体調を壊したり、事故を起こしたりと、一人また一人と脱落者が出ると、全体の志気が下がってしまい生産性が落ちてしまいます。そこで、鼓笛の練習や歌で気持ちを鼓舞して頑張る姿が意地らしく、純粋で可愛らしいのです。でも忘れてはいけないのが、この映画はプロバガンダだということ。国民の自由と幸せを奪っていく原因を作っているのは戦争です。美しい少女たちの心は、永久不滅の尊いものですが、戦争を是とするものではありません。それでも、黒澤監督が描こうとする人間には、何か希望を見ることができます。

 

 昭和映画の巨匠として世界的な評価を受けている黒澤明監督。戦争の只中に公開された映画があることを今回初めて知りました。羅生門や七人の侍など、ハードボイルドな男臭い作品が多い中、これは異色の作品。リアリティを追求するために、出演者たちは実際に共同生活をしていたそう。彼女たちの楽しそうな掛け合いやお互いくっつき合って歩く様など、自然に見えたのはその効果なのかと思います。ダイナミックな演出方法は、黒澤映画ならではかも知れません。戦後の向こうは、今の私たちとは別世界。同じ日本なのに違う国みたいな世界と比べてみると、良いところも悪いところも見えてきます。コロナ禍で世界が変わろうとしている今、時代を振り返ってみてはいかがでしょう?

 

一番美しく

DVDパッケージ

公開日:1944年4月13日

上映時間:85分

ジャンル: ドラマ

監督: 黒澤明

キャスト:志村喬, 清川荘司, 菅井一郎, 入江たか子, 矢口陽子

【内容】

巨匠・黒澤明監督が贈る、昭和19年の日本を舞台に女子挺身隊として徴用を受け、軍事工場で働く少女たちの日常をリアルに描いた作品。志村喬、清川荘司、菅井一郎、入江たか子、矢口陽子ほか出演。(「Oricon」データベースより)

 

●一番美しく[東宝DVD名作セレクション] ¥2,316〜
※Youtubeでも視聴できます。

目次