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2020.6.20.

 

 

 

 今から74年前1946年は、終戦の翌年。この年の元旦に、連合国占領下の日本において昭和天皇の詔書が発布されました。詔書の後半部に「天皇が現人神(あらひとがみ)であることを自ら否定した」と解釈される部分があり、その部分を指して「人間宣言」と呼ばれています。終戦前の日本は、天皇を神格化することで、国民や軍隊を鼓舞し、強い日本を印象付ける帝国主義的な政策を推し進めていました。この言葉は、軍事国家としての日本を弱体化を意図するGHQの意向に基づいたものでした。しかし、現人神としての天皇は否定したものの、神の子孫であるという古代から受け継ぐ伝統を否定するものではなかったため、国民が混乱することはなかったそう。後のインタビューで昭和天皇は、「神格の放棄はあくまで二の次で、本来の目的は日本の民主主義が外国から持ち込まれた概念ではないことを示すことだった」と応えており、敗戦によって日本国民の誇りが失われないことに主眼を置いた発言だったようです。この時の昭和天皇の国民を思う揺るがない意思に、日本人としての私たちは救われたのだと感じます。

 

 そして、今回ご紹介するのは、木下恵介監督「大曾根家の朝(あした)」です。終戦の翌年に公開された反戦映画です。戦争に翻弄される一家を描いたこの作品が、この年のキネマ旬報第一位とは、皮肉な結果です。戦争とは家族を破壊し、何一つ幸せを生み出さないものとして民衆の心に刻まれたのだと感じます。冒頭のクリスマスを楽しむシーンに象徴されるように、大曾根家は、士族の末裔として優雅な暮らしぶりの一族。三人の息子と娘とその婚約者が集まって、賑やかな夜を楽しんでいました。しかし、そこから一転。娘の婚約者の出征を皮切りに、長男は警察に連行され、次男と三男は出兵することになります。大学教授であった夫に先立たれた未亡人の母と娘は、陸軍大佐を務める叔父に世話になるのですが、自分の意思とは逆行する時代の風潮に押し流されて、苦しみます。

 

 大曾根家 未亡人役の杉村春子の言葉少なに感情を押し殺した演技が、この時代の息苦しさを伝えてくれます。本来日本人が持っている大らかな性質が、戦争の軍事主義的な考え方に押し潰されていく姿が切なくて苦しい。映画では軍人の叔父と母の立場から二項対立の図式が描かれていますが、当時は本来の日本人らしさが抑圧されて何が正しいのか分からなくなっていたかもしれません。だからこそ、この映画が観る人に刺さったのかなと思います。これまでも、反戦映画は数ありますが、この映画には終戦直後の実感を伴う生々しさがありました。この数十年で戦争を知る世代がこの世を去ってしまうと、戦争の怖さを語る人がいなくなってしまいます。時々、古い映画の中にあるリアルを感じる機会が大切だと感じます。

 

大曾根家の朝

DVDパッケージ

公開日:1946年2月21日

上映時間:81分

ジャンル: ドラマ

監督: 木下惠介

キャスト:杉村春子,三浦光子,大坂志郎,小沢栄太郎

【内容】

木下惠介監督の第5作で、戦後第1作になる。木下にとって、初めてのキネマ旬報ベストワン作品。

 

●大曾根家の朝 [youtube視聴]  ¥300〜

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