今も昔も、映画はみんなが楽しめる身近な娯楽。
映画が誕生して120年余り。
私たちのおじいちゃんおばあちゃん、
あるいは、ひいおじいちゃんやひいおばあちゃんだって
映画を楽しんできました。
ひいおじいちゃんが観ていたかもしれない100年前の映画や
お父さんの青春時代を彩っただろう50年前の映画など
公開年ごとにランダムに紹介していきます。


これまでのライブラリー
2020.6.20.
今から74年前1946年は、終戦の翌年。この年の元旦に、連合国占領下の日本において昭和天皇の詔書が発布されました。詔書の後半部に「天皇が現人神(あらひとがみ)であることを自ら否定した」と解釈される部分があり、その部分を指して「人間宣言」と呼ばれています。終戦前の日本は、天皇を神格化することで、国民や軍隊を鼓舞し、強い日本を印象付ける帝国主義的な政策を推し進めていました。この言葉は、軍事国家としての日本を弱体化を意図するGHQの意向に基づいたものでした。しかし、現人神としての天皇は否定したものの、神の子孫であるという古代から受け継ぐ伝統を否定するものではなかったため、国民が混乱することはなかったそう。後のインタビューで昭和天皇は、「神格の放棄はあくまで二の次で、本来の目的は日本の民主主義が外国から持ち込まれた概念ではないことを示すことだった」と応えており、敗戦によって日本国民の誇りが失われないことに主眼を置いた発言だったようです。この時の昭和天皇の国民を思う揺るがない意思に、日本人としての私たちは救われたのだと感じます。
そして、今回ご紹介するのは、木下恵介監督「大曾根家の朝(あした)」です。終戦の翌年に公開された反戦映画です。戦争に翻弄される一家を描いたこの作品が、この年のキネマ旬報第一位とは、皮肉な結果です。戦争とは家族を破壊し、何一つ幸せを生み出さないものとして民衆の心に刻まれたのだと感じます。冒頭のクリスマスを楽しむシーンに象徴されるように、大曾根家は、士族の末裔として優雅な暮らしぶりの一族。三人の息子と娘とその婚約者が集まって、賑やかな夜を楽しんでいました。しかし、そこから一転。娘の婚約者の出征を皮切りに、長男は警察に連行され、次男と三男は出兵することになります。大学教授であった夫に先立たれた未亡人の母と娘は、陸軍大佐を務める叔父に世話になるのですが、自分の意思とは逆行する時代の風潮に押し流されて、苦しみます。
大曾根家 未亡人役の杉村春子の言葉少なに感情を押し殺した演技が、この時代の息苦しさを伝えてくれます。本来日本人が持っている大らかな性質が、戦争の軍事主義的な考え方に押し潰されていく姿が切なくて苦しい。映画では軍人の叔父と母の立場から二項対立の図式が描かれていますが、当時は本来の日本人らしさが抑圧されて何が正しいのか分からなくなっていたかもしれません。だからこそ、この映画が観る人に刺さったのかなと思います。これまでも、反戦映画は数ありますが、この映画には終戦直後の実感を伴う生々しさがありました。この数十年で戦争を知る世代がこの世を去ってしまうと、戦争の怖さを語る人がいなくなってしまいます。時々、古い映画の中にあるリアルを感じる機会が大切だと感じます。
大曾根家の朝
公開日:1946年2月21日
上映時間:81分
ジャンル: ドラマ
監督: 木下惠介
キャスト:杉村春子,三浦光子,大坂志郎,小沢栄太郎
【内容】
木下惠介監督の第5作で、戦後第1作になる。木下にとって、初めてのキネマ旬報ベストワン作品。
●大曾根家の朝 [youtube視聴] ¥300〜
目次
- No.1: 騒動頻発の年 1972年(昭和47年)の名作
- No.2: 日本中が沸き立った年 1964年(昭和39年)の名作
- No.3: 終戦から5年後の日本ってこんな感じ 1950年(昭和25年)の名作
- No.4: 昭和の歌姫誕生の年 1949年(昭和24年)の名作
- No.5: 平成の始まりはバブリーな恋愛映画 1989年(平成元年)の名作
- No.6: ジャパニーズホラーの金字塔 1998年(平成10年)の名作
- No.7: 皇太子様ご成婚の年 1993年(平成5年)の名作
- No.8:両陛下ご成婚の年 1959年(昭和34年)の名作
- No.9:10年ひと昔といいますが… 2009年(平成21年)の名作
- No.10:マリリンモンローが謎の死を遂げた年 1962年(昭和37年)の名作
- No.11:若者文化が花開く、神武景気に沸いた年 1956年(昭和31年)の名作
- No.12:アポロ11号が人類初の月面着陸をした年-1969年(昭和44年)
- No.13:サンフランシスコ平和条約が発効された年-1952年(昭和27年)
- No.14:ケネディ大統領が暗殺された年-1963年(昭和38年)
- No.15:バカヤロー発言で衆議院が解散した年-1953年(昭和28年)
- No.16:団塊世代が小学校に上がる年-1954年(昭和29年)
- No.17:ナチス軍・ヒトラーが世界を席巻した年-1940年(昭和15年)
- No.18:日本の運命が変わった年-1941年(昭和16年)
- No.19:東京ディズニーランドが開園した年-1983年(昭和58年)
- No.20:「欲しがりません勝つまでは」が流行った年-1942年(昭和17年)
- No.21:マハトマ・ガンディーが銃弾に倒れた年-1948年(昭和23年)
- No.22:暴動や大規模デモ、暗殺…大事件が多発した年-1968年(昭和43年)
- No.23:第一回紅白歌合戦が放送された年-1951年(昭和26年)
- No.24:東京都の人口が世界第一位になった年-1957年(昭和32年)
- No.25:東京で初めてスモッグ警報が出された年-1965年(昭和40年)
- No.26:東京タワーが竣工した年-1958年(昭和33年)
- No.27:原水爆禁止日本協議会が結成された年-1955年(昭和30年)
- No.28:17ヵ国が独立。脱植民地が進んだアフリカの年-1960年(昭和35年)
- No.29:最初で最後ビートルズが来日した年-1966年(昭和41年)
- No.30:ケネディ大統領が誕生した年-1961年(昭和36年)
- No.31:出生率3.43 昭和最高のベビーブームの年-1947年(昭和22年)
- No.32:昭和天皇の詔書にて人間宣言された年-1946年(昭和21年)
- No.33:日本が敗戦・終戦を迎えた年-1945年(昭和20年)
- No.34:戦局悪化の一途、連合艦隊事実上壊滅の年-1944年(昭和19年)
- No.35:戦争の悲劇。戦時猛獣処分の年-1943年(昭和18年)
- No.36:国民徴用令公布など国民生活激変の年-1939年(昭和14年)
- No.37:満州事変から満州国建国 強い日本があった年-1932年(昭和7年)
- No.38:佐藤栄作が非核三原則を言明した年-1967年(昭和42年)
- No.39:芥川賞・直木賞が設立された年-1935年(昭和10年)
- No.40:クーデター未遂2・26事件が起こった年-1936年(昭和11年)
- No.41:盧溝橋事件に端を発し日中戦争が始まった年-1937年(昭和12年)
- No.42:今度の一万円札の顔 渋沢栄一が亡くなった年-1931年(昭和6年)
- No.43:蟹工船事件・エトロフ丸、信濃丸事件の年-1930年(昭和5年)
- No.44:平成天皇継宮明仁様が生まれた年-1933年(昭和8年)
- No.45:昭和農業恐慌・東北地方で深刻な凶作の年-1934年(昭和9年)
- No.46:国家総動員法が公布・施行された年-1938年(昭和13年)
- No.47:三島由紀夫が割腹自決した年-1970年(昭和45年)
- No.48:マクドナルド第一号店が銀座にオープンした年-1971年(昭和46年)
- No.49:オイルショック・トイレットペーパーが消えた年-1973年(昭和48年)
- No.50:プロ野球のレジェンド長嶋茂雄引退の年-1974年(昭和49年)