いつか、我が家にもやってくる「介護」という時間。
体験してみないとなかなか実感を持てないけれど、
どんな様子なのか知りたくないですか?
介護のカタチは十人十色。
家族の状況やその時の選択によっても
いろいろな道があることを知り、
自分と似たケースから学ベる
介護の事例集をお届けします。

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2018.12.26

第2話 認知症の母と長女の出産・Hさんの場合

【ご家族構成】

 

現在は、夫、妻(Hさん)、次女の3人での生活。Hさんの母親が要介護者。Hさんの父親は10年程前に他界。結婚して近くに暮らす長女が介護をサポートしてきた。長女に産まれた2人の孫の面倒もみながら暮らす。

お母さまと一緒に暮らしていた当時のことを聞かせてください。

 「ねえ、またばあばが出てっちゃったよー」

そのたびに探し回って。1日に何回も、何かしら新しい問題が起こって追いつかない状態でした。

 

もともと母はひとりでバスツアーを申し込んで旅行に行っちゃうくらい活動的な性分。「ちょっと散歩行ってくる」と出て行って、1時間くらい帰ってこないのは当たり前。あちらのこちらのスーパー銭湯など、毎日どこかに出掛けるのです。

 

ところが、降りるバス停を間違えたのかすごく長い距離を歩いたり、家にいてもカップラーメンをこぼしたままボーッとしていたり、今思えば徐々に様子が怪しくはなっていました。

でも私はそれが認知症の兆候とはまったく思わずにいて、疑いもしませんでした。

 

飲まないといけない薬もたくさんあったのですが、飲むのを忘れてしまって入院することになったり、コンロの火の不始末があったり。それが3年くらい前、本人が75歳くらいのことだったと思います。

 

それでさすがに「あれ?」と思うようにはなりました。おトイレも失敗しちゃったりとか。でも、本人が自分で尿漏れパッドを付けるなど、普段の生活やコミュニケーション自体は普通にできていたんです。だから、粗相をごまかそうとすることも、物忘れが多くなったことも、同じ事を何度も繰り返して言うことも、「年のせいだからそういうもの」くらいに受け止めてしまっていました。

認知症だという認識がHさんにもなかったのですね。

 はい。2年前くらいでしょうか、勝手に外を出歩くようになりました。それでも口で注意するばっかりで。

夜、おしっこで床を濡らすようにもなっていましたが、毎日いろいろありすぎて、その場その場の対応で終わっていたのだと思います。通っている病院でも特に認知症とは言われなかったと思うんですよね。

 

昨年秋、外に出て行って転んで、救急車を呼ぶ騒ぎになったことが2度ほど続きました。通院のため送り迎えが必要になり、これから大変だ、さあどうしようと。

そこで長女が区役所に電話したら、ケアマネージャーさんの電話番号を教えてくれました。それまではそういう施設のことを全然知りませんでした。本人が老人向けの施設には行きたくないと言ってたものですから。

 

はじめは9時に迎えに来てもらって夕方5時半に帰ってくる、デイサービスの利用でした。

私のストレスがたまって朝から母と口論になってしまう日は、お迎えの人に「ケンカしちゃいました」と訴えると、「仕方がないですよ」って笑ってくれたり。「手を出しちゃいそうです」と泣きそうな気持ちも分かってくれて、うれしかったです。

 

一緒に暮らしているときは付きっきりでした。目を離せないし、時間が分からないようで夜も寝てくれない。これがいつまで続くのか、これ以上ひどくなるのか。やがて母との口論が暴力にエスカレートしはしないか。それが不安でした。

 

実は私自身も大きな病気を抱えていて、手術と2度の入院をしながらの介護でした。母のこと、孫のこと、自分のこと。当時のことはうまく思い出せません。何を優先すべきかきちんと判断ができない状態だったのだと思います。

 

その後、長女の三人目の出産の際に、夜も別の施設に母を預けるようにしました。お泊まりに行くのもごまかしながらで本人には言えなかったですね。

介護サービスを利用するようになって、どのような変化がありましたか。

 母を預かってもらえたことで楽にはなりましたが、気持ちのどこかで「これでよかったのかな」という思いが消えません。なんだか申し訳ないような、笑ってはいけないような気持ちがつきまといます。

最近になってやっと少し、そういうふうにあまり思わなくなったかな。

周りに認知症だと思われたくない、認めたくない、という気持ちが本人にも、私たち自身にもあったのかもしれません。

 

患者の家族も患者、というけれど、ケアマネさんに「介護する側の家族にも心の余裕が大事。自分自身も大切に。お母さんを支えるためにも娘さんが元気でないと」と言われたときは救われた気がしました。

「え、預けてまで自分の時間をつくっていいの?」って。

土日も預けていいと言ってくれて、こっちがわがままになってしまうくらいに、毎日短時間でも利用するようになりました。今はロングショートという形で母を預けて入所待ちの状態です。

 

最近はちょっと余裕ができて、元気なうちにどこかに連れていってあげたいと思えます。とてもじゃないけれど、今まではそういう気持ちになれませんでした。信頼できる良い人、良い施設に恵まれたなと思います。